Web人賞

浅川 智恵子

日本IBM株式会社 東京基礎研究所 主席研究員

「aDesigner」等アクセシビリティ関連研究


音声ブラウザやアクセシビリティ評価ツールを開発

Web を視覚障害者の情報源として
確立するために


Webという媒体は当初の文字主体のものから画像やデザインを重視したものへとシフトしてきている。その一方で障害者、とくに視覚に障害を持つ人にとってはアクセシビリティの面で十分な対策がなされていない。しかし実際の視覚障害者にとっても、Webは世界と自分をつなげるインターフェースとして大きな力を持っているという。自身の体験を基にしてWebアクセシビリティを確保・啓蒙するソフトウェアの開発を行っているのが日本IBMの浅川智恵子氏だ。

――ご自身にとってインターネットとは?

 インターネットがない時代と今を比べて大きく違うのは、情報を得るという点に関して「自分でできるようになった」ということですね。インターネット登場以前は、何か調べものをする場合にはその都度健常者に頼んで、代わりに調べてもらう必要がありました。しかしインターネットを利用することで検索エンジンなどを利用して自分で調べることができるようになりました。この環境が実現できるようになった背景には音声合成によるテキストの音声化が可能になったという点があります。本をはじめとして印刷物ベースのものは誰かに代読してもらったり、点字への翻訳が必要で、ダイレクトに情報を得ることができません。しかしパソコンなら、表示された情報を音声で読み上げられるだけでなく、自身で操作をして次々に情報を引き出すことが可能なのです。視覚障害者にとってインターネットは非常に重要な情報源になっているといえます。

――これまでの活動の経緯は?

 インターネットが一般でも利用できるようになる1996年以前には、パソコンそのものを利用するためのツールの研究/開発がメインでした。パソコンの操作そのものや表示されるテキストの音声化が主な目的ですね。これらのツールでインターネットの利用も可能でしたが、さらに利用しやすくするために専用のプロダクト開発にフォーカスするようになりました。そこで開発したのが「ホームページリーダー」という製品です。
 この製品は1997年10月に研究成果のひとつとして発表したもので、視覚障害者向けにWebページ読み上げブラウザとして店頭販売を開始しました。1998年~99年には同ソフトを英語版へローカライズして国外での販売も開始しています。ソフトウェアの分野では日本語から他言語へのローカライズの例は少なく、意義のあることだと考えています。もともと障害者向けのプロダクトは社会貢献的なものというイメージが強いのですが、このホームページリーダーは一般市場向けの製品として提供しています。多くのユーザーから「こんなにインターネットが身近になった」「簡単に使えておどろいた」などの評価を得られた点はとてもうれしく思っています。
 これらの製品の開発は私を含めた5~6人のメンバーが連携して研究開発を行っています。世界レベルでは弊社のワールドワイドアクセシビリティセンターなどの関連部門との協力体制も用意されています。これに準じた形で社内でもアクセシビリティを重視した環境作りがなされており、協力体制のもとで研究/開発を行っています。

――視覚障害者から見た今のWebページの問題点は?

 まず「alt」タグの問題があげられます。広告や画像などでaltタグに「Click here」とだけ入っているものが多いんですね。何もaltタグに入れないというのはWebページの基準を満たしていないわけですが、ただ「Click here」とあるだけでは、その先に何があるのか分かりません。またFlashコンテンツの問題もあります。Flashそのものは開発元がある程度アクセシビリティについて考慮されるようになってきていますが、実際の使用状況を見ているとまだまだ問題があると感じています。

――これからの活動とその目標について聞かせてください。

 以前、Webページをより視覚障害者に伝わりやすい形にするプロダクトとして、Webページをアクセシビリティを考慮した形へと変換するサーバ技術を開発しました。しかしこれはWebページのコピーライトが問題となり、実用化にはいたりませんでした。コピーライトの問題を解決するには、Webを制作している方々の対応を待つしかないという状況にあります。このためのひとつの方法として、Webページのタグを解析し、視覚的にアクセシビリティを確認できるツール「aDesigner」を2004年に公開しました。このツールはWebページをホームページリーダーで音声化した際に、どのような順番やアクセス方法で再生できるかを確認することができます。単にアクセシビリティを数値やデータで示すのではなく「視覚的」に問題点を表示する仕組みを備えているのが特徴ですね。視覚障害者だけでなく、年齢による目の衰え、色弱者などにも対応することができます。

――アクセシビリティを研究する原動力は?

 インターネットをはじめとした新たなテクノロジーは健常者にとってはもちろん有効ですが、私たち視覚障害者にとっては不可能を可能にする大きな可能性を秘めています。このようなポテンシャルをもった技術群をエンドユーザーにも提供することで、新たな世界が開けると考えています。またWebという目から情報を得ることが中心となるメディアでは、見えにくい・読みにくいという問題が全ての人や年齢などに広がりつづけていきます。これらの問題に常にフォーカスし続けることで、一般的な人達にも身近なテーマになると考えています。

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