Web人 of the year

平田 大治

シックス・アパート株式会社 執行役員

weblogの開発


技術のディスカウントが、新しいコンテンツ層を生み出す

ウェブログが生み出す個人コンテンツの流通時代

2003年ごろから普及し始めたウェブログが注目されている。投稿フォームから記事を投稿するだけで、整形されたコンテンツを手軽に発信できるウェブログは、アフィリエイトやコンテンツマッチ広告を巻き込みながら大きく発展している。そのウェブログの代表的なシステムが「Movable Type」だ。Movable Typeの日本語化を手がけ、ブロガーから「Blog神」とまで尊敬される平田大治は、Six Apartの法人化に着手。今は日本法人のCTOを勤めている。

―― Movable Typeとの出会いは?

ある日、ジョーイ(伊藤穰一氏)が「これは面白いからインストールしてみなよ」と、Movable Type(ムーバブル・タイプ)勧めてくれたんですね。最初は「よくある日記CGIのひとつ」と思っていましたが、実際に使って非常に驚きました。
Movable Typeは、日記CGIのレベルをはるかに上回り、CMS(コンテンツ・マネージメント・システム)として成り立っていたのです。かつシステムからロゴデザインまで、パッケージの完成度が非常に高い。それが、有償ライセンスでも非常に安価に提供されており、びっくりしました。
さらに、個人間のコンテンツを流通させる「TrackBack」の仕組みが面白く感じました。良い点はTrackBackの仕様が公開されていることで、Movable Type以外のシステムでも自由に実装できます。このほか、RSSという記事の更新情報をXMLで記述した仕組みにも対応していましたね。
「Webサービス」と呼ばれていた高度な技術を、個人が意識することなく使えるようにパッケージングされており、技術者として大きな可能性を感じました。
ところが、Movable Typeは英語圏で生まれたシステムです。日本で使うには、日本語が使えるように拡張しなくてはなりません。そこで、Movable Typeの日本語化に着手しました。

―― これまでの「日記」とウェブログの違いは何でしょう?

Movable Typeを一言で言うと、「分散型パブリッシングシステム」なんです。個人がコンテンツを管理するシステムと、コンテンツのデータベースを保持し、自由にカスタマイズして使える。Movable Typeの登場で、個人でもCMSに手が届くようになったんです。他のウェブログシステムでは、ここまで考えられていませんでした。
もちろん、大企業向けのCMSはありました。これらのCMSは導入コストとランニングコストが高く、とても個人で扱えるものではありません。
ウェブログが登場し始めた頃、日記とブログの違いがネットの掲示板などで揉めた時期がありました。私の分類ですが、日記ツールは日記にしか使えないのに対し、CMSは日記以外の用途にも使えるようになっています。さらに、Movable Typeでは、XMLでのデータのインポート・エクスポートやデータベースの連携が可能です。エンタープライズ向けの技術を、個人で使えるようにディスカウントした点が大きく異なると思います。
技術を安く提供することで、面白いコンテンツが生まれる土壌ができます。Movable Typeは、インターネットの理想に一歩近づけるシステムと感じました。

―― Movable Typeに続き、大手ISPが次々とウェブログを提供しましたね。

Movable TypeでCMSの設置が簡単になったといっても、最低限のCGIの知識などが必要です。ウェブスペースがISPの標準メニューになって、個人のウェブサイトが普及したように、ウェブログの発展にもISPの標準メニューとして組み込まれることが欠かせませんでした。
正式サービスとして、ウェブログを最初に導入したのが@niftyさんです。TypePadをカスタマイズした「ココログ」ですね。カスタマイズには、シックス・アパートとネオテニーの技術者だけでなく、@niftyさんの技術者の力を借りてサービス公開までこぎ着けました。
大きな企業と提携し、Movable TypeやType Padを広めるに当たって、Six Apartを企業化する必要がありました。そこでネオテニーが出資して投資しています。ウェブログをもっと世界に普及させるためです。
個人でもウェブログの普及に必要なシステムを提供していますよ。現在、モブログ(携帯電話から更新するブログ)向けのサーバと、PINGサーバ(ブログの更新情報をまとめるサーバ)を運営しています。PINGサーバに更新情報を送ってくるウェブログは、約23万ウェブログまでに成長しました。
コンピュータの性能が飛躍的に上がったことで、個人でも大きなサービスを運営できるようになってきました。ウェブログに限らず、面白い時代ですよ。

―― 今後のウェブログはどう発展して行くと思いますか?

Movable Typeは、本格的なCMSになるにはまだ機能不足ですが、個人が使うCMSとしては十分な機能があると思います。パブリッシングに関係した機能は、それほど拡張されないかもしれません。
これからは、コミュニティを運営して行く機能が強化されるでしょう。小さな集団でコミュニケーションを楽しみ、時々他からトラフィックがやってくる。ウェブログの多くはこんなスタイルになると予想できます。小さな集団でコミュニケーションを楽しむための機能を充実させる必要があると思います。
ウェブログが普及し始めた初期は、「ジャーナリズムの置き換えになる」など、様々な期待を集めてきました。プロシューマーや、プロのライターが運営しているウェブログでは、一部ジャーナリズムの置き換えを担うかもしれません。これらを軸に個人のウェブログに情報が流通して行く、そんなコンテンツの流れが生まれると良いですね。
ただ、今のウェブログはバブル的な展開をしていると思っています。早ければ今年中にバブルが崩壊するでしょう。しかし、ウェブログがもたらした技術的なインパクトは確実に定着しています。RSSやatomを使った、コンテンツの定型化する流れは、今後も加速すると期待しています。

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