Web人賞

瀧 久雄

株式会社ぐるなび 代表取締役会長 兼 CEO

ぐるなび


実世界の情報とサイバーワールドの情報、この2つを繋げる「クリック&モルタル」が重要

ITバブル期に大量に誕生して消えていった「Web上の情報提供サービス」。大手ですら撤退を余儀なくされる中、順調に成長、3万店を超える加盟店を誇るサービスがある。「オールドベンチャー」とも紹介された瀧久雄が率いる「ぐるなび」だ。いち早くサービスを開始したぐるなびは、加盟店は3万4,000 店、登録利用者は90万人を突破した。瀧が起業するのはぐるなびが初めてではない。瀧が元々抱いていた「自分で事業を起こす夢」に挑戦する覚悟を決め、起業家に転身したのは37年も前の事だ。高度成長と呼ばれた頃に技術を軸に会社を立ち上げた。

――ぐるなびを立ち上げた経緯をお聞かせいただけますか

当時、すでに当社は「JOYJOYブライダル」に代表される鉄道網の情報ネットワークを構築していた。「JOYJOYブライダル」はオンライン情報サービスで、「2次会向け情報」として500店のデータを持っていた。これをインターネットに移したらどうだろうか、とひらめいた。これが「ぐるなび」の原型だ。
ある日、当社の技術者が面白い物があると見せてくれた。インターネットだ。画面上に文字と映像が次々と表示されるが、聞けば海外のサーバに記録されている情報という。インターネットについて調べてゆくと、映像を含めた通信コストが1/100以下になる事が分かった。パソコン通信は文字中心のメディアであり、成長に限界があると感じていた。しかし、インターネットなら画像や動画を配信できる。
私は常に「革命は1/100から起こる」と言っている。産業革命は蒸気機関の発明による生産コストの引き下げで引き起こされた。ITは通信のコストを1/100に引き下げられる。これは産業革命に匹敵する大きな革命が起きると確信した。
私にはインターネットが大きなチャンスに思えた。そこで、96年に「ぐるなび」を立ち上げた。コンセプトは「レストランのサポーター」だ。日本に飲食店は全国で40万軒、首都圏に10万軒あり、売り上げは30兆円にも達する。しかし、タウンページに掲載されている店舗は2,500店で3%にも満たない。インターネットにより、映像等のコストが1/100に下がることで、桁違いに多くの店舗をネットワークに参加させることもできる。大きく化けると確信した。
まず、JOYJOYブライダルの2次会情報の加盟店500店に無料で掲載を呼びかけ、のちに有料化した。まず3,000店の参画を最低ラインとし、1万店の加入でぐるなびの全面リニューアルを企画していた。おかげさまで、参画して頂いた店舗が3万店を突破。会員も本年9月には90万人を突破するなど快調に成長している。
ぐるなびが成功した点は、立ち上げ時期が早く急拡大する「ロケットスタート」に成功したこと、利用するお客様に費用的な負担を求めなかった点と、コミュニティを構築できた点だろう。ぐるなびは、ネットのクチコミ情報「クリック」と、「店舗」という実世界「モルタル」を結びつけた「クリック&モルタル」を真に体現したサービスだ。

――ぐるなびの初期のお話からインターネットに与えた効果までお話し頂けますか

ぐるなびを立ち上げるときも、社内を含め周囲からは「正気の沙汰か」と思われた。1,000万円単位のビジネスが動いている社内で、「1件3,000円」と言えば相手にされなくて当たり前だろう。そこで、若手を味方に引き入れ一軒一軒営業して回った。
インターネットどころか、PCが無い店舗が大半なので、ファクシミリでぐるなびに参加できるシステムを構築、無理なくインターネットサービスを利用できるようにした。加盟してくださる店舗から、「ぐるなびを使うと、お客様から予約が入るんだよ」と激励のお手紙を頂くことがあった。
私は、21世紀の豊かな食生活のためやる気のある料理長のお手伝いをしたいと考えている。「ぐるなび」はその入り口で、たとえば、食品の仕入れのサポートなどを通じて、飲食店の生産性をさらに上げることが可能だろう。
ぐるなびに参画して頂いている飲食店は、全体から見ればまだまだごく一部に過ぎない。さらに多くの飲食店に参画して頂かなけるよう努力あるのみだ。ゆくゆくは、料理長には料理に全神経を費やして頂き、その他の広告活動から雑務までをぐるなびがサポートする仕組みを仕上げたい。
参画してくださった店舗とならび、ぐるなびの利用者のモラルの高さにも感謝している。中には荒らし的行為を行う人もいるが、自然にコミュニティから無視され排除されてゆく。顔が見えない空間であっても信頼関係を築くことは可能だ。今後、商品開発に置いてユーザの声を無視した方法はあり得ない。
ある日のことだ。プライベートでぐるなびを利用している人に会ったことがある。ぐるなびクーポンを持ってゆくとお店がお客様を、より大切に扱うような気がして嬉しくなった。店舗やお客様、すべての人に喜ばれるサービスを提供できて誇りに思っている。

――オールド・ベンチャーとも呼ばれますが

今から37年も前になるが、私は三菱金属にいた。当時は「サラリーマン」という言葉が出始めた頃で、明治時代のような「男だったら事業で一旗揚げてやれ」という気概を持つ者は少なく、一流の会社に入った人達は「やっと本格的な月給取りになれた」という時代で、ベンチャービジネスなどは不可能に近い状況だった。私は父からの影響もあって、ベンチャーへ野心を持って4年目、27歳で三菱金属を退社して駅での情報サービスを開始した。三菱金属ではビジネスの基本を覚えた。
このとき、ビジネスモデルの構築やコンピュータネットワークの将来について、各界の専門家やトップにお話を伺った。伊藤忠商事の鈴木勇作氏、柏木恭忠氏、京急の大石英夫氏の3人に特にお世話になった。
当時、私が目を付けたのが鉄道網だった。東京の鉄道網は、世界に類を見ない密度で人が行き来をしている世界最高のインフラだ。そこで「駅のパブリックスペースで情報提供サービスはうけるかもしれない」、そう思い当時の国鉄に掛け合ってスペースを割いてもらったのが始まりだった。
書類にハンコを250個ほど押して、4年掛けて稟議を通し、今から約20年前、東京駅に「銀の鈴」情報コーナーを開設した。駅というパブリックスペースでの情報サービスだが、これはインターネット上の情報サービスというコンセプトにも繋がっている。
当社のような技術を主体にしたベンチャーは、技術者を大切に扱わなければならない。彼らの着眼点、将来を見通す力を侮ってはいけない。ビジネスモデルを構築するのは別の者の役割だが、「ビジネスの種」は彼らが握っている。

――ベンチャーが企業として成り立たつために必要なことはなんでしょうか

ベンチャーとしてというより、事業として成り立たせるためには、継続できることが最低条件だ。立ち上げの苦労はいとわないが、立ち上げた後はスムーズに売り上げるビジネスモデルを構築できなければ成り立たない。また、ベンチャーは潜在ニーズを狙うべきで、誰が見ても、聞いても良いと思えるアイデアや面白そうなアイデアは、大企業向きであると言える。
潜在ニーズをあらゆる角度で分析し、お客様が払うであろう金額より安いコストで事業を立ち上げるのが秘訣だ。そして「行ける」と思ったら、周囲の雑音に惑わされずに実行に移すべきだ。あとはスピード勝負である。その分、コンセプトワークにはじっくりと時間をかけ、シビアに検討しなければならない。現代においては、ITの専門家の意見を採り入れながら、確固たるビジネスモデルを構築する事も重要と言える。
これから、インターネットを軸に新たな事業を興そうとする人もいるだろう。まず事業のアイデアについて、いろいろな人と会い評価してもらう事が必須だ。事業に関連する技術の専門家や、ベンチャーで成功した人、多くの意見をもらいビジネスモデルに取り入れなければ「独善」となってしまう。そして、いざ「やる」と決めたら迷わずに実行するのみだ。周囲の雑音に惑わされてはいけない。
(小林慎太郎/山本浩司)

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