Web人賞

三牧 義明

株式会社リクルート フロムエーナビ編集長 グループマネージャー HR首都圏Div.メディアプロデュース3部フロムエーナビグループ

リクナビ


新卒学生に情報武装を、人事にIT革命を

毎年、56万人前後の新規学卒者が社会に羽ばたいてゆく。その大半にあたる約55万人が利用する就職支援サイト、それがリクナビだ。紙の履歴書ではなくWeb上のフォームから応募する、今では常識となった「Webエントリー」。これはリクナビが定着させたシステムである。
リクナビが世に出てから、就職活動は大きく変化した。学生は資料請求のハガキや電話による会社説明会の申し込みなどの手続き作業から解放され、自分の就きたい仕事や働きたい企業を探すことに専念できるようになった。企業の人事担当者は履歴書の山から解放され、より必要な人材を探し出せるようになった。 Webとデータベースを組み合わせたリクナビは、学生からも企業からも歓迎されている。
プロジェクトの中心メンバーは、三牧義明。リクルートの異端児を自認する彼は、社内の反対を押し切り就職支援のIT化に踏み出した。

――55万人というと市場のほぼ100%ですが、スタートから快調だったんですか?

再評価するとトントン拍子にユーザが増えたと言えますが、当時はもっと弱気な予想を立てていました。96年の初年度に5万人の会員を集めたのですが、それでも当時は多いと思いましたね。嬉しいことに年を追うごとにユーザが爆発的に増え、97年では14万人、98年で36万人にまでふくれ上がりました。30 万人ぐらいからリクナビの採算が取れるようになってきて、今ではリクルートの柱の一つに育っています。
初年度は、本当に学生が利用してくれるか不安で、かなり地道にプロモーションしていましたね。リクナビの開始当初はURLが珍しい時代だったので、ウチのメンバーがURLを印刷した名刺大のカードを各大学に置いて回りました。さらに、リクナビのロゴやURLが入ったマウスパッドを配布しました。とにかく、学生にネットでの就職活動を身近に感じて欲しかったんです。
ほかには、大学のPCのホームページをリクナビにしてもらうように頼み込んだんです。これは効果があったと思います。また、当時はPCに不慣れな学生も少なくなかったので、ネット初心者向けに「リクナビの攻略本」まで作りました。
さらに、学生からの問い合わせや相談に対して丁寧に答えました。相談内容は、就職活動にとどまらず人生相談に近い内容で、かなり大変な作業でした。しかし、地道に相談に乗ったことで、リクナビを信頼してくれる学生の輪が広がっていったのではと思います。

――元々あった紙媒体をWebに再構築していったのでしょうか?

デジタルメディアを企画するにあたって、紙媒体をベースに考えないように気を付けました。ペーパーをWebにするのではなく、Webを前提にしたらどんなシステムができるか、これを追求しました。たまたま自分自身が紙媒体出身ではなく、情報通信分野に携わっていたこともあり、旧来の社内常識やしがらみにとらわれることがなかったのも、今から思えばラッキーでしたね。
実は、リクナビのステップになったデジタルメディアがいくつかあるんです。
最初のデジタルメディアは、95年に立ち上げた院卒生向けの「リクルートブック・オン・ザ・ネット」です。これは、紙媒体にご出稿頂いた内容を、無料でWebに転載した物です。まだ、紙から独立できていなかったんですね。
それから96年に「デジタルビーイング」を立ち上げました。これは紙媒体と連携せず、単独で商品展開を行ったものです。この頃は営業的に苦戦を強いられました。
リクナビと同時期にスタートさせたのが、「Sim-Career」です。これは、中途採用者向けのスキルデータベースで、利用者は匿名のままで企業と対等の立場にて転職活動を行えるのが特徴でした。これらのサイトで培ったノウハウがリクナビに活かされています。
リクナビのスタート前は社内から猛反発に合いました。紙媒体でのビジネスモデルを確立していましたし、30年にわたるノウハウの蓄積がありましたから。社内競合になるようなサービスを立ち上げる事に反発があって当然です。最後は、専務取締役(当時)の木村義夫さんと取締役の中村恒一さんが「他社に市場を取られるぐらいなら、ウチでやろう」と決断、リクナビにゴーサインを出しました。
この決断が、リクナビの命運を決めたと言っていいと思います。というのも、競合他社より1年先んじてサービスを開始できたので、口コミ効果が生まれたんですよ。Webエントリーを使って就職した先輩が、「リクナビを使うと就職できる」と後輩に、そして人事担当者に勧めてくれたんです。翌年、また後輩にリクナビを勧め…、とプラスのスパイラルが生まれたのが強さに繋がったと思います。

――リクナビがWebに大きな影響をもたらしたと推薦されていますね

学生と企業、2つの面で影響を与えたと自負しています。なかでも、企業のITリテラシを底上げできたと思います。
すでに大学にはPCが設置され、インターネットを利用できる状態でした。学生は頭が柔らかいですから、すぐに慣れてくれました。
それと比べると、企業のITリテラシはずっと低かったんです。マウスの持ち方が分からない、ダブルクリックができない、そんな人が多かったですよね。そこで、リクナビをご利用頂いている企業担当者様向けに、「PC講習会」を東京、大阪、ほか全国各地で開いたんです。その甲斐もあり、Webエントリーしてきた学生とのコミュニケーション履歴を管理できる「リクルーティング・ヘルパー」を活用して頂けるようになりました。これによって、学生と企業の人事担当者が、リクナビを通じてコミュニケーションする基盤ができあがりました。
リクナビは、就職活動そのものを変えたと思います。ハガキを書く、送られたハガキを読む。これは就職・採用活動において「手続き」であって「目的」では無いはずです。より自分にマッチする会社、会社にマッチする人材と出会うことこそ、就職活動で重要な目的だと思うんですよ。
Webとデータベースを組み合わせて就職活動を支援することで、学生は「根性ハガキ」や「電話掛け」から解放されて、自分の就きたい仕事や働きたい職場を探すことに専念できます。採用担当者も、資料送付や応募者の履歴管理から解放され、求める人材を探す作業にリソースを割けるようになるんです。
今、3年で1/3の人が最初に就職した会社を辞めてしまいます。学生と企業のミスマッチが原因の一つですが、これを少しでも和らげたいですね。

――リクナビを立ち上げたモチベーションはどこに

カッコ付けて言うと、僕は弱い立場の人の味方になりたいんです。新卒の学生と企業では、持っている情報に格差がありますが、これを少しでもITで埋めたかったんですよ。会社と個人では個人が弱い立場で、新卒の学生はもっと弱い立場に立たされています。多くの学生にとって就職活動は初めての経験だし、世間知らずですからね。情報で武装することで、少しでも企業と対等の立場で就職活動ができればいいな、と思っていました。
一度、社会に出た人だと「甘くてうまい話は無い」と分かりますが、新卒の学生では情報と経験が不足しているので、情報の見極めが難しいですよね。そこで、企業紹介に「先輩の声」を載せるようにしています。こうすることで、会社の雰囲気や実際の勤務時間など現場の声を伝え、情報の格差を埋めるようにしています。
今後は、学生からもう少し広い範囲の若者を対象にしたいです。今、夢を持てない、夢を失ってしまう若者が多いですよね。目標を見失っていたり、せっかく苦労して入った会社を辞めちゃったり。そんな若者の「なりたい!」に応えられるサービスを立ち上げたいです。たとえば、中学生がノーベル賞を取った田中さんを見て「科学者になりたい!」と思ったら、高校で何を学び大学でどの学科、どのゼミに進学すればよいか、人生をナビゲートできたら最高ですね。
ある学生から貰った、忘れられないメールがあるんです。「最初に志望した企業に就職はできませんでしたが、多くの企業と知り合うチャンスをくれたリクナビに感謝しています」。リクナビやってよかった、本当にそう思います。

【三牧義明氏の実績】
■リクナビ
http://www.rikunabi.com/
■デジタルビーイング(現リクナビNEXT)
http://next.rikunabi.com/
■Sim Career(現リクナビNEXT)
http://next.rikunabi.com/
■フロム・エー ナビ
http://www.froma.com/

リクルートが提供するオンライン就職情報サービス。大学生・院生向けの「リクナビ」と、社会人向けの「リクナビNEXT」、アルバイト向けの「フロム・エーナビ」を展開、リクルートの大きな収益の柱に成長している。
(小林慎太郎/山本浩司)

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