Web人賞

中村 勇吾

MONO*crafts.

MONO*crafts.


心地よいインタフェイス設計がテクノロジーを活かす

Flashを使ったインタラクティブ・インタフェイスは、今では珍しくなくなった。これを創り上げたのが中村勇吾。アニメーションツールだったFlashを、サイトのインタフェイスに昇華させ、ウェブの表現手法に革命を起こした人物だ。
「単に好きだったから」。中村はさらりと振り返るが、彼がウェブにもたらした功績は計り知れない。中村がアートディレクターを務めた「CAMCAMTIME」は、第1回東京インタラクティブ・アド・アワードでグランプリを受賞。ソニーのTVCMのエンディングに登場するイメージを生み出す「Connected_Identity」もイギリスのデザイン集団Tomatoとともに中村が関わった物だ。中村のアイディアはデザインという枠を飛び越え、各界から高く評価されている。

――中村さんのWebサイトのデザインは高く評価されていますが、デザインを始めたきっかけは

僕は元々、Webサイトのデザインを目指していた訳ではないんです。実は、建築家をずっと目指していました。子供の頃にガウディの写真集を見たのがきっかけです。建築家を目指して猛勉強したわけですが、大学を出て設計会社の構造デザイン部門に入りました。そのころは、子供の頃からの夢だった建築デザインに参加できて、充実していましたね。
インタラクティブデザインに興味を持ったのは本当に偶然です。ある日、MITの前田ジョン氏の作品を見たときに、何とも言えない衝撃を受けました。「これはすごい」と驚くと同時に、「このままじゃまずい。俺も何か作らなきゃ」と、何か漠然とした焦りがこみ上げてきました。それで、僕は「MONO*crafts」を立ち上げ、インタラクティブ・インタフェイスに挑戦を始めたんです。
僕はせっかちなので、自分の作品の感想をすぐに聞きたいと欲しいと思うんです。「どうですかね、これ」みたいな感じで。ところが、巨大建造物となると設計から完成まで膨大な時間がかかります。完成品の反響が得られるのはもっと後ですし、ほとんど自分に反響が返ってきません。
これがインターネットだと、すぐ作品を発表できますし、反響もすぐに帰ってきます。しかもメールですから、ダイレクトですよね。それで、徐々にWebデザインに魅力を感じるようになりました。
会社で設計、自宅でWebデザインの二足ワラジ生活が続きましたが、次第にWebデザインにのめり込むようになりました。だんだん、サイトの制作に時間を割きたくなり、意を決して会社を退職、Webデザインやインタラクティブ・インタフェイスの分野で仕事をしてみようと決意したんです。

――Macromedia Flashとの出会いは

よく勘違いされるところですが、「Flashありき」では無かったんです。あくまで、僕がやりたいことの手段として優れていたのがFlashだったんですよ。 JavaやDHTMLなどを使えばインタラクティブな作品を作れます。しかし、これらでは、コーディングなどばかりに手間がかかってしまう。これが、 Flashならコーディングの時間は短くなり、もっとも意識を注ぎ込むべき所、つまりインタフェイスを洗練させる作業に時間を割けるようになります。
初めてFlashに触れたのは、バージョン4.0だったと思います。このバージョンから簡易プログラム言語が搭載されたんです。これを活用すれば面白い事ができそうだと。実は、プログラム言語といっても四則演算とデータの読み込み程度、本当に必要最低限しかなかったんですが。Flashの開発者も、積極的に使われる機能だと思っていなかったのでしょうね(笑)
この頃の話ですが、作ろうとしていたデザインに、どうしても三角関数が必要だったのです。ところが、当時のFlashには実装されていませんでした。そこで、自分でデータテーブルを作って代用しました。メールで「Flashには三角関数が使えないはずだけど、どうやって作ったの?」と聞かれたときは、ニヤリとしましたよ。こんな風に、裏では結構泥臭い作業をしてたんです。

――Flashインタフェイスで心がけていることは

当時、HTMLを基本としたWebのデザインはある程度固まっていました。せっかくFlashを使うのだったら、何か新しい価値を提案しなければ、ユーザに受け入れられないと思います。その答えの一つが、インタラクティブ・インタフェイスなんです。
とはいえ、一般的に「インタラクティブコンテンツ」というとアニメーションやBGMが入って、何か「大層な物」というイメージが当時強かったと思います。僕は、そういった「インタラクティブ」には、少々違和感を感じていました。サイトからのアピールばかりで疲れてしまうんですよ。
僕は、とりあえずインタフェイスを作ってしまい、自分で徹底して使い倒すんです。そうしていると、無駄なアニメーションや余分なサウンドが分かってくるんですよ。延々と使って「当たり前のように、いつまでも心地よく触り続けていけるレベル」にまでそぎ落とされた時点で、僕にとっての完成なんです。
僕はシンプルな反応が好きなんです。池に小石を投げ入れると水面に波紋が立つような。チャプン、と音も出ますよね。インタフェイスを設計するときは、こういったシンプルな反応の美しさを再発見してもらえるように心がけています。

――今後のWebサイトはどうあるべきと思いますか

今のインターネット技術には、サーバ側で革新的な技術を使っていても、それを活かすインタフェイスが伴わない物が非常に多いですよね。見栄えという意味でも重要ですが、情報の配置や「心地よいインタフェイス」のあり方を真剣に考える時期が来ていると思います。
技術だけでもダメで、かといってデザインだけでも成り立ちません。技術を深く理解した上で、技術を活かすインタフェイスが重要なんです。
学生の頃、都市計画や風景計画を学んでいて「情報のリンク」の大切さを学びました。「1000万ドルの夜景といわれる神戸の夜景は、六甲山の展望台があることで初めて成立している」と言われてハッと気が付いたんです。その素材を引き立てるインタフェイスがあって、初めて素材の価値が生まれると。この教えは、僕のインターフェースデザインに大きな影響を与えています。
好きが高じて「MONO*crafts」を始めました。インタラクティブ・インタフェイスという大きな流れの中で、Flashインタフェイスという「一つの枝葉」を出せた事はとても嬉しく思っています。
「MONO*craftsを見てデザイン興味を持ちました。自分のサイトを見て欲しい」、こんなメールをもらうと、とてもうれしいですね。今後は、いわゆるFlashインタフェイスに留まらず、様々なスタイルのインタフェイスのあり方を探って行ければ思います。

【中村勇吾氏の主な作品】
●CAMCAMTIME
http://tokyo.interactive.ad.awards.jp/
ソニーのブロードバンドコンテンツとして制作された映像スクリーンセーバ。ユーザはWebカムなどで撮影した映像を、メッセージとともにサーバに転送する。送られた映像は、サーバ側でCAMCAMTIMEの1秒ごとに文字盤に配置される。スクリーンセーバが起動するたびに、最新の映像をダウンロードし、デスクトップ上で一秒ごとに笑顔が重なる時計として再生される。

●CONNECTED_IDENTITY
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/dream/ci/ja/
ブラウザから入力されたメッセージなどをサーバに蓄積、入力に応じて変換したグラフィックをリアルタイムで公開する。常に人と交わり、常に開かれており、常に変化するソニーの姿勢を表す。(閉鎖)

●ecotonoha
http://www.adnec.com/eco/
「ecotonoha」(エコトノハ)は、インターネット上の仮想の樹を育て、現実の森を作ってゆく参加型プロジェクト。
(小林慎太郎/山本浩司)

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