Web人創業賞

吉松 徹郎

株式会社アイスタイル 代表取締役 兼 CEO

@cosme


ITを活かした「新しい市場データ」を創造したい

多数のユーザーから集められるものの、ビジネスとしては成り立ちにくいジャンル、それが「クチコミ」だ。ユーザーが集まるほど、コミュニティはコントロールを離れてしまい、企業は敬遠してしまう。そんな中「100万件を超えるユーザーの生の声、クチコミ情報」と「化粧品メーカーへのビジネス」を両立に成功したのが化粧品コミュニティサイト「@cosme」だ。絶妙なバランス感覚がユーザーと企業の双方のメリットとなり、クチコミは増え続けている。サイト運営の手腕が評価され、「第6回ニュービジネスプランコンテスト 優秀賞」や、「All About Japanスーパーおすすめサイト大賞2002総合大賞受賞」、「日経インターネットアワード2002 ビジネス部門 日本経済新聞社賞」などを受賞。さらにNTTデータとの資本提携を獲得している。

――化粧品とITでは遠い関係に思えますが、化粧品業界に興味を持ったきっかけは何でしょう

もともとは、一緒に@cosmeを立ち上げた山田が発行していたメールマガジンがきっかけです。当時、彼女は化粧品メーカーで商品開発に携わる仕事をしていたのですが、もっと自由に意見を発言してみたいとメールマガジンを発行していました。すると、今まで仕事でさえ聞けなかったユーザーの「生の声」がどんどん寄せられてくるんですね。僕も彼女が驚いているのを横で見ていて「何だこれは」と。
1999年当時、インターネットを利用している女性はまだ少ない時代でした。ITを活用したマーケティングの話はたくさんありましたが、化粧品に特化すればビジネスチャンスがあるかもしれない。こんな思いが産まれて、化粧品業界に興味を持ち始めました。
化粧品業界について調べてみると、化粧品は市場に出回っている発売品数が非常に多く、春夏・秋冬のシーズンごとに新商品が発売されています。その上、販売チャネルが多岐に渡るので、ユーザー主体での比較検討が難しく、他人の評価や意見を聞いてみたいという欲求が高い商材でもありました。また、化粧品業界は1兆5,000億円のマーケットと言われ、広告予算を占める割合が大きいこと。さらに、成熟産業であるため「ネットなど、新しいマーケティング手法が活かせるのではないか」と考えました。そこで、従来のマーケティング手法によらない新しい手法、自発的な声を蓄積してユーザーや化粧品メーカーにフィードバックする方法はないか、こう考えたことが@cosmeの出発点になっています。

――それから会社の立ち上げを決意されたんですね?

1999年4月にアイディアが浮かび、5月のGWに事業計画書を書き上げました。7月には結婚資金をもとに300万円の資本金を集めて「有限会社アイスタイル」を設立しました。当初から、人に紐づくクチコミデータをマーケティングデータとしてまとめ、企業に対して提供する事業を中心に考えていました。自社で行うCRM(Customer Relationship Management)では、自社と接点があった顧客データしか持ち得ないため、集められるデータに限りがあります。また、ユーザーが自発的に情報を寄せてくれなければ、データ収集するためのシステムコストは上昇し、顧客データを抱えれば抱えるほど投資に対する効果が落ちるのではと感じていました。
それならばコミュニティの概念を導入して、メーカー各社が共有できる部分は共有化し、抱えているコストを分散していこうというのが、私たちが考えているコンセプトです。人に紐づくデータは、メーカーを横断する大きなデータベースとなり、自社の商品を使っているユーザーは他社のどの商品を使っているのか、競合他社のユーザーはどういう属性か、といった今までになかったマーケティングのフィールドとなる。そのフィールド作りがアイスタイルの目指しているところです。
実際に@cosmeを始めるに当って、まず化粧品のデータベースを作らなければなりませんでした。ところが、化粧品業界にはインターネットで公開できる、書式が統一されたデータがありません。結局、自分たちが一つずつデジカメで商品を撮影、データを入力しました。ときには男3人で化粧品のパンフレットを集めに行ったこともあります。私たち以外フロアにいるのは全員女性。一心不乱にパンフレットを集める男3人組の姿はかなり怪しまれていたと思いますが、今となってはいい思い出です。
そんな準備をしながら1999年12月3日に「@cosme」をオープンさせました。立ち上げの時には、いろいろな方に助けられました。余ったサーバを分けてくださったり、ビルの空き部屋を貸してくださったり。深夜まで続く作業もありましたが、「新しいビジネスを生み出しているんだ!」と熱気にあふれていました。

――サイトの立ち上げ後、化粧品メーカーとは順調にお付き合いできたんですか?

最初、私のなかでは「製品を広告する意味もあり協力は得やすいだろう」と思っていましたが、甘かったですね。@cosmeの特徴を「ユーザー投稿による製品レビュー」と説明したところ、なかなか商品情報を提供してもらえませんでした。「とんでもない書き込みがあったらどうするんだ」と懸念されたケースが多かったのです。そんな中、興味を持ってくださったのが資生堂様でした。ユーザーの本音を集められるメリットをご理解頂けたのです。資生堂様とのケースをきっかけに、他のメーカーの皆様も徐々に利用していただけるようになりました。
コミュニティのコントロールは、ビジネスモデルを検証している段階からの課題でした。まったく書き込みを自由にしてしまうとマーケティングデータになりません。かといって、厳しく書き込みを制限すると、ユーザーからの信頼が得られません。良質なコミュニティを維持する為に、一定のルールを設け不正なクチコミがないか、1件ずつ人の目によってチェックしています。
また@cosmeはコミュニティサイトですが、掲示板コミュニティではないんです。掲示板コミュニティでは、コミュニケーションからミスコミュニケーションが発生する恐れがあるからです。サイトの中では、掲示板とレビュー(クチコミ)を分け、コミュニケーションは掲示板でとってもらうようにしています。「@cosmeはレビューを投稿する場所」とユーザーから認知されるまで1年ぐらいかかりましたね。

――ドットコムバブルの頃、たくさんの会社が出来ましたが、多くはなくなりました。生き残った秘訣はなんでしょうか

生き残った、というよりまだ発展途中なのでなんともいえませんが、今日までやって来れたのは@cosmeを利用して下さるユーザーを主体に考えてきたからだと思います。ドットコムバブルが弾けて、財政的に@cosmeに逆風が吹くこともありましたが、「ビジネスモデルは間違ってない」と自分に言い聞かせていました。おかげさまで、ようやく単年度黒字を達成、2004年の6月期では累積赤字も解消できる見込みです。
もうひとつ、何かあるとすれば「運」が良かったのだと思います。ここまで投げ出さずにこられたのも、多くの方に支えて頂いたからこそです。特に最初のきっかけをくれた松山大河さん、ネットエイジの西川さん、ネットイヤーの小池さん、苦しい時を支えてくれた都築明日香さんをはじめ、ハッチェリーの方々、化粧品業界の皆様方。@cosmeを愛してくださるユーザーの皆様にはお礼の言葉は言い尽くせません。
そして、なにより今日まで一緒にやってきたアイスタイルのメンバー全員と、公私のパートナーであり戦友でもある山田メユミに心から感謝しています。
(小林慎太郎/山本浩司)

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