Web人貢献賞

井上 雅博

ヤフー株式会社 代表取締役

Yahoo!JAPAN


インターネット利用者の「欲しい」に応える、
それがYahoo! JAPANだ

Yahoo! JAPANのページビューは、1日で約5億にものぼるという。調査会社によると、日本のインターネット利用者のうち90%以上が利用していると言われるポータルサイトだ。Yahoo! JAPANの躍進はWebだけにとどまらない。高止まりだったADSLサービスに対して、驚異的な低価格の「ヤフーBB」で殴り込みをかけ、ADSL事業においても300万人を超えるユーザを抱えるナンバーワンの接続サービスに成長した。Yahoo! JAPANは、日本のインターネットに欠かせない企業といえる。Yahoo! JAPANを立ち上げ、大きく成長させたのが代表取締役の井上雅博である。70年代にアップルとマイコン市場を二分した「ソード」出身の彼は、連日明け方まで自社サイトをチェックし、サービスの質を高め続けた。

――日本でもYahoo!を立ち上げようと思った経緯と、初期の状態を教えて頂けますか

Yahoo! JAPANの立ち上げを始めたのは95年、ヤフー株式会社の設立は96年の1月でそのときに取締役に就任しました。Yahoo! JAPANが実際にサービスを開始したのは96年の4月になります。
そのころのインターネットはUNIX技術者のための道具で、社会では「インターネット」という単語すら知られていない状況でした。そんな状況で、 Yahoo! JAPANを立ち上げるプロジェクトがソフトバンク内で始まった訳です。そのときに、ソフトバンク社長室・秘書室長だった私に白羽の矢が立ち、 Yahoo! JAPANを任されることになりました。
立ち上げの頃は部屋を間借りしていました。社長室の隣の部屋にパーテションを置いて、コの字型に机を並べた空間。これがYahoo! JAPANの始まりなんです。
当時、まだYahoo! JAPANは独立した組織ではなく、ソフトバンクのYahoo! JAPAN立ち上げプロジェクトという位置づけでやっていて、スタッフは他のソフトバンクグループとの兼任という形になっていました。広告営業はソフトバンクの出版部門から、技術はソフトバンク技研、コンテンツはソフトバンクパブリッシングの編集部のように。ソフトバンク内での期待が大きく、プレッシャーを常に感じていましたね。

――Yahoo! JAPANのデザインやサービスで気を付けていることは何でしょう

まず、どのユーザからもYahoo! JAPANを見られるようにすることでした。そのため、徹底的にブラウザの互換性をチェックしました。「95パーセントルール」といって、どのブラウザのどのバージョンで見ても、95パーセントのデザイン再現性を求めたのです。というのも、当時のブラウザは、今ほど互換性が高くありませんから、ブラウザが違うとまったく異なるレイアウトになることが珍しくなかったんです。
さらに、私自身がユーザとしてYahoo! JAPANを使って不便なところがないか、常にチェックし続けました。大げさな話ではなく、1日20時間はYahoo! JAPANを見ていたはずです。気が付くと夜が明けて外が明るい、毎日がそんな感じでしたね。さすがに、今はそこまで細かくサイトをチェックしていませんが、気づいたところは改善させるようにしています。こういったユーザの立場に立ったサービス方針は、現在のYahoo! JAPANの現場にも引き継がれています。
コンテンツという視点では、インターネットの利用者が必要とするサービスをいち早く実現することを心がけてきました。この方針は、Yahoo! JAPANの初期から現在まで変わっていません。
初期はインターネットの検索サービスが中心でしたね。次に天気予報や株価などの情報サービス、メールやジオシティーズ、チャットなどのコミュニティー機能の追加と続き、オークションに代表されるコマース機能、そして携帯電話からも利用できるYahoo!モバイルと言った順でサービスを追加してきました。これらはすべて、ユーザのニーズに応えてサービスを立ち上げてきたつもりです。

――競合に先駆けてサービスを増やしていますが、Yahoo!のサービスは順風満帆だったんですか

一般論として、サービスには「ブレイクポイント」があります。あるサービスの提供や機能の追加を境に、加速度的に普及が始まる時期ですね。今から振り返るとYahoo! JAPANには、ブレイクポイントがあったとは思っていません。コンスタントに成長を続けてきたと実感しています。多くのサービスを競合に先駆けて提供してきた事が、安定した成長の原動力だったのでしょう。
中でも、99年に立ち上げたYahoo! オークションは成長の大きな原動力となりました。当時でもYahoo! JAPANのページビューはトップでしたが、この集客力を利用したYahoo! オークションは多くのユーザに支持されましたね。
立ち上げに苦労したものの1つに「Yahoo!ファイナンス」がありましたね。ユーザのニーズがあり、すぐに立ち上げたかったサービスでしたが、データの提供元である東証が首を縦に振ってくれないんです。1年ほど交渉を続けたのですが、なかなか応じてくれない。ところが、あるポータルサイトが株価情報を開始したんですよ。翌日、先方から「提携したい」と電話がありました(笑)
もちろん、提携しただけではサービスは立ち上がりません。プログラムを作り、正しいデータを入力しなければならないわけです。ところが、提携先から提供されたデータが正しく表示できているか不安でした。
そこで、データの検証のためにサービス開始日の午前4時頃、駅まで行って新聞を買い込んできました。サービス初日からデータが間違っていたら大失敗ですから。泊まり込んだスタッフで手分けして、株価データをチェックしたんです。確か30人ぐらいでしたね、徹夜組を起こしてサービス開始まで最終チェックを行いました。

――Yahoo! JAPANが多くのユーザから支持を得られ続けているのはなぜでしょうか

それは「ユーザ本意のサービス設計」に尽きると思いますよ。Yahoo! JAPANはユーザの立場に立って、使いやすいサービスになるように心がけています。私自身も、Yahoo! JAPANのユーザですし、私がスタッフには「私が一番うるさいユーザ」と言っています。
この思想を表す一例として「50Kルール」が挙げられますね。これは、Yahoo! JAPANのHTMLや、さらに広告バナーまで全部含めて50キロバイト以下の容量に抑えるルールです。なお、サービス開始当初は「30Kルール」でしたが、通信環境の変化を見て容量を拡大しています。 50Kルールに関して営業部とせめぎ合いになります。「よりインパクトのある広告クリエイティブのため、広告バナー容量を引き上げて欲しい」、広告媒体として考えれば営業部の要求はもっともです。それでも最大容量だけは譲れません。
というのも、ブロードバンドが普及し始めていますが、まだ多くの人がナローバンドでインターネットを利用しています。ポータルとして、ナローバンドユーザへの配慮は欠かすことはできません。
それから、安定してサービスを提供することを心がけてきた事も信頼に繋がっていると思います。私はサーバ管理者に対して「サーバが落ちるのは仕方がない。しかしサービスは止めるな」と言って回っています。
これには2つの側面があって、ひとつはユーザの信頼に応える社会的責任です。もうひとつは、クライアントに対して営業的な責任が生まれるわけです。責任を果たすためには、絶対にサービスを止めてはなりません。
あと、ユーザの求めるサービスをいち早く提供してきた事が挙げられます。これからもユーザがインターネットに何かを求め続ける限り、Yahoo! JAPANはそれを提供して行きたいと考えています。現在のYahoo! JAPANを小説で例えると、第一巻の第一章が終わったぐらいだと思っていますよ。
(小林慎太郎/山本浩司)

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